贔屓の引き倒し
雑僧の雑感 仏暦2565年5月 後半 vol.86
「贔屓の引き倒し」
中国に「龍生九子(りゅうせいきゅうし)」という伝説がある
龍の子供ながら、龍にはなれなかった子供たち
皇帝のシンボルであり、神獣、霊獣と崇められる龍
龍の子供の伝説は、結構身近な存在だったりする。鯱の原型との説がある螭吻(ちふん)や、獅子と同一視される狻猊(さんげい)。木魚の意匠にみられる蒲労(ほろう)。因みに高僧や宗派の管長を猊下と呼ぶ。お釈迦様の座する場所を「獅子座」と呼ぶ。後に高僧が座る場所も「獅子座」と呼ばれるようになり、獅子と同一視される狻猊に因み「猊座」とも言われるようになった。これが猊下の由来である。
龍の九匹の子供に贔屓(ひき)と呼ばれる亀に似た神獣がいる
読んで字のごとく「贔屓(ひいき)」の語源である
因みに蒲労は、鯨に襲われると大声を出すといわれ、吠える事を好む事から、音を出す楽器の意匠に使用されるようになったそうだ。仏具では、銅鑼や鐘楼の竜頭、木魚等にみられる。
この贔屓は重き荷を背負う事を好むという伝承があり、石柱や石碑、石像、墓石の台座となっている事が多い。この場合は亀趺(きふ)と呼ばれる。趺は足の甲とか台との意がある。史跡を訪ねると石碑や大名の墓石に使用されている事例が多く見られる。なので、贔屓にするとは、言ってみれば縁の下の力持ち的な意味合いがあるのだろう。しかし、度を過ぎる贔屓はかえってその人に迷惑をかけることがある。
これが「贔屓の引き倒し」である。この諺は、亀趺とは関係ないとされる。しかし、亀趺を引っ張ると上の石碑が倒れてしまう。そんなイメージを抱かない訳でもない。好意もバランスが大事であろう。そのバランスを失ってしまうと、石碑がぐらりと揺れるように安定はしない。陰ながら支える事、それが贔屓なのかもしれない。
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