江戸前
雑僧の雑感 仏暦2565年7月 前半 vol.89
「江戸前」
江戸前と言うと真っ先に思い浮かべるものは魚だろう。東京湾で取れた魚介の事を言う。「江戸前鮨」なんて言葉もある。江戸前の鮨の食べ方は、座敷で食さぬ。出されたらすぐ食う。長っ話に長っちりはタブー。箸は使わず三指で一口に食う。これが江戸前の流儀らしい。江戸前とは鮨の事ばかりではない。
亡き杉浦日向子氏は言う「江戸前とはスタイルである」と
ではそのスタイルとはどの様なものだろうか?
括れば、当世、程、趣向
姿を言えば、湯上り、柳腰、薄化粧
色は、銀鼠(ぎんねず)、藍色、江戸紫
文様は、鮫、角通し、行儀
因に「江戸前」は京都の「都好み」に対抗して生まれた造語らしい。千年の都に抗うには、勢いと見栄と心意気。そんな風潮で生まれたスタイルが「江戸前」なのだそう。「粋」という言葉もあるが、兎も角、野暮では無くスマートさが好まれたようだ。
江戸前の文様は、「江戸小紋」と言い、派手では無く、細かい文様が好まれた。そして見えない所に御洒落をする。先に挙げた文様は「江戸小紋三役」と言い格式が高い。これに縞と大小霰(だいしょうあられ)を加えれば、五役となる。他にも色々あるが、有名なのは「千鳥」だろう。浅草観音様の聖域である隅田川に舞うカモメを「都鳥」と呼んだが、川辺に舞う鳥達を図案化したのが「千鳥」である。合切袋や風呂敷には「江戸小紋」が好まれて使われている。因みに「唐草」も江戸小紋の一つらしい。泥棒のシンボルの如く扱われる事が多いが、吉祥の文様であるので神社仏閣の装飾に使用されている。
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