投薬

雑僧の雑感 仏暦2568年2月 後半 vol.152
「投薬」
釈尊最後の食事は、キノコとも豚肉ともいわれている。鍛冶屋のチュンダからの施物である。涅槃はニルヴァーナといい、六道輪廻から解放された状態の事、あるいは煩悩が消えた状態である。涅槃図の右上に雲に乗り飛来する天女が描かれる事が多くある。天女は釈尊の生母摩耶夫人で、阿那律尊者からの知らせを聞き、急ぎ天界より舞い降りて来る姿である。
涅槃図には猫が描かれないというのが定説である。これは十二支に猫がいない事と混同されるが、おそらくは正確ではないだろう。猫は平安時代には貴人の寵愛を受けていたが、江戸期になると魔性の存在とされた事もあるようだ。そして葬儀にはタブーとされていたらしい。
宗教に限らず、後世に付帯された事が定説となる事が多くある。涅槃図の猫に関していえば、描かれる事は少ないと言われているが、どうやらそうでもなさそうだ。私の知る限りでは多くの涅槃図に猫が描かれている。おそらくは江戸期あたりに言われるようになったのではなかろうかと思われる。インドにはそもそも猫がいなかったとか、薬袋を鼠が取りに行くのを邪魔したとか、いろいろと言われている。
涅槃図には、沙羅双樹にかけられた袋が描かれる。これは薬袋とも釈尊の持ち物である衣鉢袋とも言われる。衣鉢袋とは出家者が携帯する衣や鉢の事。釈尊の涅槃に急ぎ飛来した摩耶夫人、涅槃に入らんとする釈尊に、早く薬を届ける為に霊薬の入った袋を投げたと伝わる。それが沙羅双樹に引っかかった。母の想いが伝わるエピソードである。これが「投薬」の語源と言われるが、果たして真実は如何であろうか?
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