蘭奢待
雑僧の雑感 仏暦2566年10月 前半 vol.119
「蘭奢待」
香道では、香木の香りを「嗅ぐ」のではなく「聞く」と表現し、「嗅ぐ」のは無粋だと言われる。所謂「聞香」である。これは香木の香りを聞き、そして鑑賞すること。他に、香りを聞き分ける「組香」がある。
志野流香道二十世宗匠は、「目に見えぬ香りというものに集中し、心を澄ませる」と、その心得を説く。「蘭奢待(らんじゃたい)」という香木がある。東大寺正倉院に収蔵され、天下第一の名香と名高い。沈香の一種であろうか?沈香は、香木の中でも最上であり希少である。産地や香りにより、香りが異なり、「組香」等ではその香りを聞き、種類を聞き分ける。沈香の中でも最上等のものを伽羅と言う。これは日本独特の呼び名であるとかつて聞いたような気がする。
香木の一部を切り取ることを「截香(せっこう)」と言う。「蘭奢待」はこれまでに、源頼政・足利義満・足利義政・織田信長・明治天皇による「截香」が行われたと伝わり、切り取ったあとが付箋で示されていると伝わる。
令和4年5月某日。増上寺において、前代未聞の献香式が行われたと風の噂で聞いた。どうやら、志野流香道500年の節目として、志野流の祖が足利義政から賜り、「家木」として代々継承されてきた「蘭奢待」が焚かれたらしい。室町時代から伝わり、これを焚くことは「この身を切る思い」とまで言われる程の名香中の名香。その香りはいかばかりであろうか。「東大寺」の名が隠されている名香「蘭奢待」、この香りを聞くことは、まさしく稀有なことであろう。
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